軽便鉄道(ナローゲージ)の世界。

鉄道模型
カピの塚
軽便鉄道(ナローゲージ)の世界。
こんばんは、カピの塚です。


ここに2両の車両を並べた写真があります。

1/87スケールどうしの比較

奥は米国のサザン・パシフィック鉄道のディーゼル機関車。
手前は日本の西大寺鉄道の気動車です。

車体の大きさがずいぶんと違いますが、
実はこれ、両方とも1/87スケールの鉄道模型です。


鉄道の線路は、国・地域、そして運営会社によって、
様々な規格が採用されています。

世界標準の線路幅は1435mmで「標準軌」(スタンダードゲージ)と呼ばれています。
日本では、新幹線の他、一部の私鉄・地下鉄で採用されています。

標準軌より狭い線路幅を「狭軌」(ナローゲージ)、広い線路幅を「広軌」(ブロードゲージ)と呼びます。
日本では狭軌の1067mmが普及しています。
国有鉄道が1067mmで線路を敷き始められたのがきっかけですが、
民間鉄道に於いても、国鉄と乗り入れる予定があるところは、
国鉄に倣って1067mmで線路を敷くようになったため、
全国的に普及したという経緯があります。

ただ、日本に於いては、1067mmが一般的に普及していますので、
これよりもさらに幅が狭い線路が敷かれている鉄道を、
「特殊狭軌鉄道」または単に「ナローゲージ」と呼んでいるわけです。
一般的には「軽便鉄道」と呼んだ方が馴染みやすいかもしれません。

今ではほとんど見かけなくなった軽便鉄道ですが、
かつての日本には、特殊狭軌鉄道に分類される小さな鉄道が沢山あり、
その中で特に多い線路幅は762mmでした。


ナローゲージの歴史ダイジェスト

1900年代初頭、当時の政府が私鉄を国有化する法律(鉄道国有法)を作った上に、
私鉄を建設するための法律(私設鉄道法)は手続きやややこしくなってしまいました。
この影響で新規で鉄道会社を起こす人が減ってしまうという問題が発生。

政府としては日本中の鉄道網を充実させることが急務でありながらも、
日清戦争・日露戦争でお金を使ってしまった政府に鉄道建設を進める余力はないという、
ジレンマに陥ります。

そこで事態を打開するために「軽便鉄道法」という簡易的に私鉄を建設できる法律を制定したのです。
施設も簡素なもので良く、認可さえあれば道路にも線路を敷いてよい、しかも政府が補助金も出しますよ、
というまさに「みなさんどんどん鉄道を敷いてください!」という内容。

この結果、地方都市を中心に軽便鉄道の建設が相次いでいきました。
その中で採用された例が多い線路幅が762mmだったというわけです。

軽便鉄道は旅客・貨物を兼業する一般的な輸送目的の他、
山で伐採した木材等を運搬する森林鉄道や、
鉱山で産出される鉱物を運搬する鉱山鉄道、
工場の材料や製品を運搬する専用鉄道といった、
特別な目的を持ったものも多かったのです。

簡素な設備ということで、砂利を敷かずに直接枕木を地面に設置したり、
レールも細くて安い物を使ったり、駅のホームも適当にこしらえたものだったり、
そして車両も小柄な物を…という、まさにミニ鉄道を地で行くかのよう。
それでも、その時代はそれで十分な輸送力を持っていたのです。

しかしながら、日本はその後、道路網の整備や、自動車(特にバス)の性能向上が進んでいくと、
輸送力の小さく高速運転もできない軽便鉄道は存在意義が失われていくことになりました。

輸送力がトラックやバスに負けてしまった軽便鉄道は、
廃止されて自動車に転換されます。

軽便鉄道で輸送しきれないほど乗客が多いところは、
線路幅を1067mmに直して普通の鉄道として再出発。

明らかに必要のないとみなされた路線は、
太平洋戦争の頃までに不要不急路線として強制的に休廃止となります。

事情はそれぞれですが、こうして軽便鉄道は減っていきました。

現在は「軽便鉄道法」は法律の統廃合を経て「鉄道事業法」に改められたので、
法律の上でも軽便鉄道は消えてしまっています。

それでも現在でも軽便鉄道の規格のまま営業を続けている路線に、
近鉄内部線・八王子線と三岐鉄道北勢線、黒部渓谷鉄道などがあり、
一般の鉄道と比べたミニサイズの電車・客車に乗ることができます。

また、営業ではなく保存鉄道として各地で残されているものある他、
東京ディズニーランドのウェスタンリバー鉄道などのように、
園内施設として軽便鉄道が設置されている事例もあります。

ナローゲージの鉄道模型

そんな特殊狭軌鉄道を模型で再現する場合の計算です。
1/87スケールのナローゲージ鉄道模型は「HOナロー」と呼んでおり、
車体の縮尺は1/87とし、使用する線路はNゲージとおなじ9mmの物を使います。
これは、9mmを87倍すると783mmですから、実物の762mmに近い数値になり、
Nゲージ用のレールなら手に入りやすいという利点を考えれば、
これでちょうど良いということになります。

西大寺鉄道

冒頭でご覧いただいた西大寺鉄道は、線路幅が914mmだったので、
1/87スケールの模型で9mm幅の線路を使うと実際よりも線路幅が狭くなってしまうのですが、
まあ…そのあたりは大目にみてください。

なお、西大寺鉄道は岡山市にあった軽便鉄道です。
西大寺への参拝客輸送で賑わったそうで、特に「西大寺観音院会陽」(いわゆる裸祭)の時には
車両を総動員して屋根の上にも人を載せないと運びきれないほどの乗客があったそうです。
軽便鉄道では珍しい黒字経営の会社だったのですが、並行する国鉄赤穂線開業に伴って廃止となってしまいました。

西大寺鉄道は両備バスを合併し、両備バス西大寺鉄道線と名を改めていましたが、
その名前でお察しが付くように、現在は岡山県最大のバス会社「両備ホールディングス」となっています。


さて、HOナローはワールド工芸が積極的に発売しています。
いくつかご紹介しましょう。

沼尻鉄道 ガソ101II 単端式気動車 (組立キット)
沼尻鉄道 ガソ101II 単端式気動車 (組立キット)


沼尻鉄道とは、正式名称を日本硫黄株式会社沼尻鉄道部と云い、
福島県の沼尻鉱山から採掘した硫黄鉱石の運搬を行っていました。
そのついでに旅客も運んでいたのですが、そこで活躍していたのがこの気動車。
形式名が聴き慣れない「ガソ」ですが、ガソリンを燃料としていました。
お客さんが多いときはこれで客車も引っ張ります。

「単端式」とありますが、要するに運転台が前側にしかない気動車です。
この手の気動車は終点の駅で小さなターンテーブルに載せられ、
乗務員さんや駅員さんの手作業で向きを変える、という使い方をされます。

この沼尻鉄道は沿線にスキー場があった関係で、冬場はスキーヤーで賑わったそうで、
最混雑時には気動車と客車を総動員して7両編成で走ったという逸話も。
しかし、鉱山が閉山されたあとは観光鉄道として再出発をしようと
磐梯急行電鉄に社名変更したのですが、
その翌年倒産しています。

急行列車が無いのに急行。電車が無いのに電鉄。もはや伝説です。

【特別企画品】 成田鉄道 ガ201II 単端式気動車 (塗装済み完成品)
【特別企画品】 成田鉄道 ガ201II 単端式気動車 (塗装済み完成品)


車体前方ににゅ~っと突き出ていますが、ここにエンジンが搭載されています。
愛称は「ひょっとこ」だそうで、あらやだ可愛らしい。
形式名「ガ」が表すように、この気動車もガソリン燃料で走っていました。
ボンネットバスが線路を走っているようなイメージですね。

模型は、ワールド工芸自慢の「TU動力」という超小型動力ユニットを装備しています。
こんなに小さな車体なのに、窓から車内のモーターが見えないところが素晴らしい。

この成田鉄道は京成電気軌道系の軽便鉄道で、鉄道事業は後に辞めてしまいましたが、
現在は千葉交通というバス会社として存続しています。昔も今も京成グループ。

ちなみに、初代の成田鉄道は別会社で現在のJR成田線です。

【特別企画品】 越後交通 栃尾線 モハ215 ツートーン仕様 (塗装済み完成品)
【特別企画品】 越後交通 栃尾線 モハ215 ツートーン仕様 (塗装済み完成品)


スマートな車体が非常に近代的。
そして屋根の上に巨大なパンタグラフ。
まさにアンバランスさが軽便鉄道の電車の醍醐味ともいえます。
パンタグラフは普通の鉄道用を載せてるんでしょうかね。

栃尾電鉄は新潟県長岡市にあった軽便鉄道で、
後に会社の吸収合併を経て越後交通栃尾線と名を改めました。
越後交通と言えば、新潟県では知らない人はいない大変有名なバス会社ですね。
社長が時の総理大臣・田中角栄氏だった時代もありました。

越後交通栃尾線は軽便鉄道の中では近代化が進められていました。
全線が電化されていた上に、一部区間ではCTC(列車集中制御装置)が導入され、
末期にはモハ215などカルダン駆動の電車が走っており、
車体が小さいことを除けば当時の最新の電車となんら褪色がありません。

スペックだけを見れば、廃止されてしまったことが残念な路線です。

上野(こうづけ)鉄道 5号II ポーターサドルタンク 蒸気機関車 (組立キット)
上野(こうづけ)鉄道 5号II ポーターサドルタンク 蒸気機関車 (組立キット)


上野と書いて「こうづけ」と読むことからお分かりの通り、群馬県の軽便鉄道です。
ご覧に通り小ぶりな蒸気機関車で、亀の子と呼んでもよさそうですね。
車体の長さも短いし、小さな煙突、小さなロッド、凝縮されていますね。
機関室がちょっと大きく見えますが、それでも普通の鉄道の蒸気機関車に比べたら小さいので、
機関士さんがどんな感じで運転していたのか見てみたいですね。

模型は「II」と書いてあるように改良品。
動力装置を一新し、車体の大きさも見直してあります。

ちなみに、上野鉄道は現在の上信電鉄。
線路幅を1067mmに改軌して今も走り続けている鉄道会社です。

【特別企画品】 草軽電鉄 デキ12 (23号機・丸形ボンネット) 電気機関車 (塗装済完成品)
【特別企画品】 草軽電鉄 デキ12 (23号機・丸形ボンネット) 電気機関車 (塗装済完成品)


謎が深まるナローゲージの世界。
パッと見、なにがなんだかわからない形状をしている車両ですが、
これは電気機関車です。

小屋みたいな運転室に乗り込んで機関士さんが運転していたわけですが、
平べったい車体と屋根の上の異様に背が高いパンタグラフの影響で、
一般的な電気機関車に比べてアンバランスに見えるわけです。

HOナローの鉄道模型では草軽電鉄のデキ12は人気があります。
やはりこの独特な形状が見事に再現されているからでしょう。
パンタグラフは可動式で、TU動力装備でちゃんと走ります。

【特別企画品】 明延明神電車 赤金号 窓浅付晩年時代 (塗装済完成品)
【特別企画品】 明延明神電車 赤金号 窓浅付晩年時代 (塗装済完成品)


兵庫県の明延鉱山には鉱山鉄道がありました。
鉱石の輸送を目的としていたので基本的には貨物輸送ですが、
鉱山関係者を輸送するためにこのような電車も走っていました。

関係者しか乗らない業務用(?)の電車なので当初は運賃無料だったそうですが、
途中から運賃50銭、1952年の値上げ後は1円の運賃を徴収していたとか。
人員輸送は1985年まで続けられたそうですが、最後まで運賃1円だったとか。
マスコミにも取り上げられた影響もあり「1円電車」の愛称でも親しまれていたそうです。

それにしても、この路線はほとんどがトンネル内を走行していたそうなんですが、
電車の塗装が非常に派手というか、なんというか凄い目立ちます。
車輪の大きさも前後で違いますし、小さな窓やドアがなんとも異様な雰囲気です。









最後に、HOナローの模型を走らせる環境作りについてです。

9mm幅のレールを用意すれば、HOナローの車両は走らせられます。
つまり、Nゲージ用の線路をそのまま流用するのが楽です。

でも、こだわる方にはこちらがおすすめ。

HOナロー(9mmナロー) フレキシブル線路・木枕木 (914mm) (1本)
HOナロー(9mmナロー) フレキシブル線路・木枕木 (914mm) (1本)


PECO(ピィコ)からHOナロー用の9mm幅の線路が発売されています。
レイアウトを作る際にはこちらを利用した方がリアリティが増します。
ぜひ写真を拡大して見てください。
良く見ると枕木の間隔がけっこう適当ですし、
枕木自体が平行に並んでいないのです。
軽便鉄道らしい簡素な線路が再現されていますよ。

ただ、実際の軽便鉄道の線路は写真で見る限り本当に簡素で、
各地の軽便鉄道を乗り歩いた方の文献を読むと、
線路状態がさほど良くないためか、時々脱線してしまうこともあったとか。
脱線したら運転士さんと車掌さんと乗客で力を合わせて
車両を持ち上げて線路に戻す…なんてこともできたようです。

「そんな線路で大丈夫か?」
(速度が上がらないから)大丈夫だ。(脱線してもお客さんと一緒にすぐ復旧させるから)問題ない。」

そんな光景があったと想像すると、なんとも微笑ましいというか、
現代ほど定時運行に厳しいわけでもないので、
大変おおらかな時代だったんだなと思います。


PK-11 待合室付きホーム
PK-11 待合室付きホーム


MORIN(モーリン)から発売中のペーパーキットで、
小さなホームと小さな待合室が出来上がります。
大変素朴というか質素な駅なんですが、
まさに軽便鉄道にピッタリなストラクチャーといえます。
塗装やウェザリングでよりリアルさを出してみてください。



先ほども申し上げた通り、今も軽便鉄道として存続しているところ、
普通鉄道にリニューアルしたところ、廃止されてバス転換してしまったところ、
地域の財産として保存車が残されているところなど、
様々な運命をたどった軽便鉄道。

日本中に軽便鉄道があった時代の乗り鉄はさぞかし面白かっただろうなと思う一方で、
路線が多すぎて逆に大変だっただろうなとも思います。
普通の鉄道とはちょっと違う、個性的な車両も多く、模型もなかなか面白いですね。

ナローゲージの鉄道模型に触れてみるのも良いかもしれません。


担当:カピの塚@「パズー、釜焚き手伝え~。」





おまけ。

HOゲージ(16.5mmゲージ)の模型で日本形となりますと、
車体を1/80スケールで作った「16番」(またはJスケールとも?)が多いのですが、
16番の模型と比較したらこんな感じです。

1/80スケールの普通鉄道と1/87スケールの軽便鉄道

奥の国鉄客車は1/80スケール、手前の西大寺鉄道は1/87スケールで、
並べてみると国鉄客車が異様に大きく(逆に軽便鉄道が小さく)見えてしまうので、
ちょっとスケールに拘る人には違和感があるかもしれません。


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